大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)76号 判決

控訴人

東京信用保証協会

右代表者

磯村光男

右訴訟代理人

成富安信

外六名

被控訴人

株式会社 土屋商店

右代表者

土屋宣侑

右訴訟代理人

砂子政雄

被控訴人

三幸毛糸紡績株式会社

右代表者

岡田憲孝

右訴訟代理人

池内勇

外二名

被控訴人

数野を

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第八五号不動産任意競売事件につき、同裁判所が作成した原判決添付第一配当表中順位3の(1)ないし(4)及び順位6ないし8を本判決添付配当表のとおり改める。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実(すなわち、原判決添付第一配当表が東京地方裁判所により作成された経緯)は当事者間に争がない。

二〈証拠〉によると、次のとおり認定することができ、これに反する証拠はない。

訴外数野株式会社(以下訴外会社という)は、訴外渋谷信用金庫(以下訴外金庫という)から左記の借入れをし、又は手形割引を受けた。

1  昭和四八年八月一〇日に金五〇〇万円を、最終弁済期昭和五三年八月九日、利息年8.3パーセントの約束で借受。

2  昭和四八年八月一〇日付信用保証付極度手形割引約定に基づき、その頃手形金合計二九〇万円の各約束手形を割引料年8.25パーセントの約束で割引。

3  昭和四七年一二月二二日に金五〇〇万円を、最終弁済期昭和五二年一二月一六日、利息年8.3パーセントの約束で借受。

なお、右各債務については、訴外会社が手形交換所から取引停止処分を受けたときは、当然に期限の利益を失い、残額を即時に支払う(右2の債務については手形の買戻をする)、損害金は各年18.25パーセントとする旨の約定があつた。

三〈証拠〉によると、次のとおり認定することができる。

1 訴外数野善一(以下善一という)は、右認定の二の1、2の訴外会社の債務を担保するため、訴外金庫との間で善一所有の本件不動産につき、左記の根抵当権(以下本件根抵当権という)を設定してその日の左記登記を経由し、かつ連帯保証人となつた。

設定日 昭和四八年八月一〇目

極度額 金一、二〇〇万円

債権の範囲 信用金庫取引、手形債権、小切手債権

登記 東京法務局渋谷出張所昭和四八年八月二九日受付第三八、五四〇号

2 善一は、右認定の二の3の訴外会社の債務を担保するため控訴人が請求原因3(二)で主張するとおりの抵当権(以下これを本件抵当権という)を設定し、これにつき同主張のとおりの登記を経由した。

かように認めることができる。しかしながら、控訴人主張の極度額金一、〇〇〇万円の根抵当権(請求原因3(一)(1)のもの)については〈証拠〉によつても、これが訴外会社の本件債務を担保するためのものと認め難く、かえつて、〈証拠〉によると、右根抵当権は本来訴外会社の本件各債務とは別個の他の債務について訴外金庫が訴外会社から設定をうけたものであることが窺知できる。また右認定の本件抵当権が右認定の二の3の債務のほか同二の1、2の訴外会社の債務を担保するものであることを認めるべき証拠はもとよりない。

四〈証拠〉によると、次のとおり認定することができ、これに反する証拠はない。

控訴人は、右認定の二の1の貸金債権及び同二の2の割引手形買戻請求債権につき昭和四八年七月一三日に、同二の3の貸金債権につき昭和四七年一一月八日に、訴外会社との間で各信用保証委託契約を結び、右各委託契約に基づいて昭和四八年八月七日及び昭和四七年一二月七日に訴外金庫に対して各連帯保証の約定をなした。右各委託契約にあたり控訴人は訴外会社及び訴外数野善一との間で左記の特約をした。

1  控訴人が訴外会社に対して将来取得することのある求償権について善一は訴外会社の連帯保証人としてこれの履行の責を負い、控訴人が訴外会社、善一両名に対して将来取得することのある求償権の範囲は、控訴人の出捐の全額及びこれに対する右出捐の日の翌日から年18.25パーセントの損害金とする。

2  控訴人は本件根抵当権及び本件抵当権につき右求償債権額の範囲で訴外金庫に代位する。

3  善一が代位弁済しても控訴人に求償できない。

訴外会社は、昭和四八年一一月一四日東京手形交換所より取引処分を受けて同日期限の利益を失い各残額を即時支払うべき責任を負うにいたり、また同日本件根抵当権につき取引の終了により元本が確定した。

そこで、控訴人は昭和四九年三月二七日に訴外金庫に対して左記のとおり代位弁済し、前記求償の範囲で訴外金庫に代位し、本件根抵当権及び本件抵当権につき前記法務局出張所で昭和四九年三月二七日受付第九、九三〇号、第九、九二九号をもつて各移転の付記登記を経由した。

1 右認定の二の1の貸金債権につき

元本残金四九一万七、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年一月一日から同月一二日までの年8.3パーセントの損害金一万三、四一七円合計金四九三万〇、四一七円

2 同二の2の割引手形買戻請求債権につき

元本二九〇万円及びこれに対する同期間の年8.25パーセントの損害金七、八六四円合計金二九〇万七、八六四円

3 同二の3の貸金債権につき

元本残金四二四万四、〇〇〇円及びこれに対する同期間の年8.3パーセントの損害金一万一、五八〇円合計金四二五万五、五八〇円

以上1、2、3の総計金一、二〇九万三、八六一円。

五請求原因6の事実(控訴人の配当加入)、7の事実(東京地方裁判所の配当の実施)、同8後段の事実(控訴人の配当表に対する異議)はいずれも当事者間に争がなく、また、〈証拠〉によると、被控訴人らはいずれも本件不動産の仮差押債権者であるが、その仮差押執行の日時は、いずれも本件抵当権、本件根抵権の各設定登記の日より後であることが認められ、これに対する証拠はない。

六以上の認定、説示からすると、控訴人は訴外金庫に対する訴外会社の本件各債務を全て代位弁済することにより、主債務者たる訴外会社に対し求償権を取得するとともに、この求償権確保のため同求償権の範囲内において、訴外金庫の訴外会社に対する本件各債権及びこれを担保するための本件根抵当権、本件抵当権を法律上当然に取得し、右担保権の移転につき付記登記をなしたことが明らかである。

七そこで訴外会社に対する右求償権の範囲について検討する。

民法第四五九条第二項が準用する同法第四四二条第二項は任意規定であつて、損害金の利率等につき当事者間にこれと異る約定がある場合にはこれによるべきものと解せられるから、右四で認定した控訴人と訴外会社、善一との間の1ないし3の特約(以下本件特約という)からすると、控訴人は訴外会社に対して自己が代位弁済した金額とこれに対する代位弁済の日の翌日から右完済までの年18.25パーセントの損害金を求償しうるというべきである。

八次に、控訴人が右求償権を確保するため訴外金庫に代位して物上保証人たる善一に対する関係において本件根抵当権、本件抵当権により弁済を受ける金額について検討する〈証拠〉によると、善一は、訴外会社の訴外金庫に対する本件各債務につき同会社のため物上保証人となるとともに同金庫に対する連帯保証人となつていることが認められるが、本件においては物上担保権による優先弁済の範囲が問題となつているのであるから、控訴人の物上保証人たる善一に対する関係が検討されるべきである。なお、右のように同一人が同時に物上保証人と連帯保証人とを兼ねる場合、民法第五〇一条但書五号の適用についてはこれを一人として数えるのが相当である。)。

民法第五〇一条但書五号は保証人と物上保証人との関係においては任意規定と解されるから、代位弁済があるときにその代位の範囲を画する求償の負担部分の割合等につき当事者間にこれと異る約定がある場合にはこれによるべきものと解せられ、また同法第四六五条第一項の準用する同法第四四二条第二項は任意規定であるから、これと異なる約定がある場合にはこれによるべきものと解せられることは前同様であるところ、本件特約の趣旨からすると、この特約により控訴人と善一との間で、控訴人又は善一が訴外会社の本件各債務を代位弁済したとき、その代位の範囲を画する相互の求償の負担部分の割合につき善一のそれを全部とし、控訴人のそれを零とする旨定めると同時に、善一はその求償される額につき、控訴人の代位弁済の日の翌日から、求償金の完済までの年18.25パーセントの損害金を支払う旨を定めたことが明らかであるから、控訴人は、善一に対し代位弁済額の全額とこれに対する代位弁済の日の翌日から右完済までの年18.25パーセントの割合による損害金を求償しうるというべきである。したがつて、控訴人は、訴外会社に対する前記求償権を確保するため、訴外金庫に代位し、物上保証人たる善一に対する関係において、右に述べた善一が求償されるべき額の範囲内において、訴外金庫が本件根抵当権、本件抵当権により優先弁済を主張しえた金額、すなわち、(イ)控訴人の主張にかかる前記五説示の請求原因6の(一)の四九三万〇、四一七円(代位弁済額)とうち元本相当額四九一万七、〇〇〇円に対する代位弁済の日の翌日たる昭和四九年三月二八日から本件配当期日たる昭和五〇年一一月七日までの年18.25パーセントの割合(訴外金庫、訴外会社間の約定遅延損害金の割合の範囲内のものである。)による損害金一四五万〇、五一五円、(ロ)前同様同6の(二)の二九〇万七、八六四円とうち元本相当額二九〇万円対する同期間の同割合による損害金八五万五、五〇〇円、(ハ)前同様同6の(三)の四二五万五、五八〇円とうち元本相当額四二四万四、〇〇〇円に対する同期間の同割合による損害金一二五万一、九八〇円、以上(イ)、(ロ)(ハ)の合計金(右(イ)と(ロ)との合計額が本件根抵当権の極度額一、二〇〇万円以下であり、(ハ)の金額が本件抵当権によつて担保される範囲内のものであることは計数上明らかである。)につき、弁済を主張しうるというべきである。

九進んで、控訴人が訴外金庫に代位し、被控訴人らに対する関係において、本件根抵権、抵当権により優先弁済を主張しうる金額について検討する。

〈証拠〉からすると、本件根抵当権につきその極度額等が、本件抵当権につきその債権額、その利息、その損害金(年18.25パーセント)に関する定め等が、これらの担保権が訴外金庫により設定された当時以降登記簿上公示されていたこと及び被控訴人らがいずれも右各担保債権に劣後する債権者であることは明らかであるから、被控訴人らはこれら優先する担保権によりその被担保債権の優先弁済が主張されることを予想していたものであり、これを甘受すべき地位にあるものというべきである。したがつて、公示された右の担保権による優先弁済の範囲を超えないかぎり、弁済により訴外金庫に法定代位すべき控訴人が、被求償者たる訴外会社及び善一との間で求償権の範囲、内容をどのように特約しても、このことは被控訴人らの法律上の利益を害するとみることはできず、右特約のなされなかつた場合における被控訴人らの本件配当額の増加は単なる事実上の利益にすぎないものであり、常に当然に民法第五〇一条但書五号の適用による利益を受ける権利を有するものではないというべきである。

なお、控訴人は、いずれにしても訴外金庫に代位して本件根抵当権、本件抵当権による優先弁済を主張するものであるから、代位の性質上、その範囲においても、その効力においても、訴外金庫の有した権利以上の権利を行使しえないものであることは法律上当然であり、しかも控訴人の行使する権利は控訴人の有する求償権の範囲内にかぎられるものであることはいうまでもない。

したがつて、本件のような事実関係のもとにおいては控訴人のなした求償権に関する本件特約が被控訴人らの利益を害することは本来ありえず、控訴人は、訴外金庫に代位し、被控訴人らに対する関係においても、本件根抵当権、本件抵当権により前同様右の(イ)、(ロ)、(ハ)の全額につきその優先弁済を主張しうるものというべきである。

一〇そこで、本件各配当交付額等について検討する。

右のとおり、控訴人は右の(イ)、(ロ)、(ハ)の金額の合計一、五六五万一、八五六円の債権全額につき被控訴人らに対しこれの優先弁済を主張しうべきものであるが、原判決添付の第一配当表中順位4の(1)、(2)、5の(1)、(2)の各欄及び同順位8欄のうち数野宗次郎部分(〈証拠〉により、この部分及びその余の部分、すなわち控訴人いさをことを部分は、いずれも同8欄の債権額、交付額につき各その半分と認めるのが相当である。)についてはこれらの順位の債権者らが本件訴訟の当事者とされていないから右順位の各欄の記載に変更を加えることはできないところ、右順位4及び5の各交付額欄記載の各金額及び右宗次郎部分の交付額四五万九、一六八円の合計は一、九六二万四、七〇〇円であり、同表中順位1の競売手続費用五一万二、〇一七円、順位2の各交付額欄記載の各金額の合計は一九一万八、九四二円であり、右各金額に控訴人の債権額を加えると合計三、七七〇万七、五一五円となり、本件競売売得金三、七〇〇万円を七〇万七、五一五円超過することになるので、順位6、7の各交付額欄及び同8欄のうち控訴人いさをことをの交付額欄にはいずれも0と記載すべきものである。しかして、右(イ)、(ロ)、(ハ)の債権の相互の関係については本件両担保権の順位及び法定充当の規定に従い、同第一配当表順位3の(1)ないし(4)の各債権額欄には、順次、(ハ)の損害金額、(ハ)の元金額(代位弁済額)、(イ)、(ロ)の損害金合計額、(イ)、(ロ)の元金合計額(前同)を記載すべく、同表順位3の(1)ないし(3)の各交付額欄には、いずれもそれに対応する各債権額欄のそれと同一の金額を記載すべく、同表順位3の交付額欄には、元金七八三万八、二八一円から前記売得金を超過する七〇万七、五一五円を差引いた金額七一三万〇、七六六円を記載すべく、結局、原判決添付の第一配当表中順位3の(1)ないし(4)及び順位6ないし8を本判決添付配当表(順位8についてはこれを同8の(1)と同8の(2)にわける)のとおり改めるべきである。

一一以上の次第で、控訴人の本訴請求は、右の訂正を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、これと異る原判決は右の限度で変更を免れず、結局本件控訴は一部理由あるに帰する。

よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法第九六条、第九二条但書、第九三条第一項本文に従い主文のとおり判決する。

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

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